「宮丘トモ子霊感相談室〜外伝」ある日のトモ子と恭一の会話〜シリウス人の友人?!

<まえがき>

「宮丘トモ子霊感相談室」は気まぐれで書き溜めた「趣味の創作物語」です。架空のお話ですので、実在する人物ではありませんし、出来事もすべてフィクションです。

<登場人物>
宮丘トモ子:相談室の初代、創設者。独学で霊視鑑定の技術を磨き上げてきた。令和の時代に入り、半ば現役を退いている。

宮丘純子:血筋はトモ子の姪にあたるが、実の姉妹のように仲がいい。「霊感相談室」の物語が始まった頃はまだ学生だったが、現在は二代目として相談室を受け継ぐセラピストである。トモ子と違い、霊視鑑定はもっぱらとせず、セラピストとして心の領域を得意としている。一人息子の恭一を育てるシングルマザーでもある。

恭一:純子の一人息子。小学生だが宇宙の物語を語る不思議なところがある。

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「宮丘トモ子霊感相談室〜外伝」ある日のトモ子と恭一の会話〜シリウス人の友人?!

 時代は令和である。トモ子は、掃除をすませると冷蔵庫の食材を確認して、近くのイオンに買い物に出かける準備をしていた。

 時は流れ、霊感相談室を開設してから25年以上の歳月が過ぎた。還暦を超えてからトモ子の霊視能力はぐんと落ちた。正確には持続力が衰えたのだ。長く霊視をしていると頭痛がひどくなり、なかなか回復しにくくなった。直感で、このまま続けていれば間違いなく死期が早まることがわかっていた。
 トモ子は自己流で霊感を磨き、鑑定技術を高めてきた。札幌では相当なキャリアを積み、かなりの名声を得るまでになった。トモ子は勉強家であった。OL時代からあらゆる文献を読み込み、数々のセミナーを受講してきた。心理学、セラピーの分野でかじらなかったものがないほどである。そのためにかけた時間と費用は膨大なものであった。大学二つ分を卒業できるぐらい、勉強もした。そしてお金もかけてきた。相談室を開設した当時は、ほぼ貯金も使い果たし、長く勤めた会社の退職金でなんとか食いつないでいるような状態であった。
 全くゼロからの勝負に出たトモ子のよき仲間として、応援し続けてくれたのが姪の純子であった。その純子が今やセラピストとしてトモ子の相談室をしっかり運営しているのだ。不思議な縁を感じないではいられなかった。

 不思議な縁といえば、恭一である。今年、小学生になった恭一は純子の一人息子だ。純子は独身だからシングルマザーということになる。だが、世間でいうところのシングルマザーというレッテルをトモ子は純子に対してはるつもりは全くなかった。なぜなら、トモコ、純子、そして恭一はソウルメイトなのだ。魂の同志であり仲間なのだ。そのことをはっきりを悟ったのは、実は恭一が育ってからのことだ。

 純子が妊娠したらしいことを知った当初、トモコも世間人並みに中絶を考えるように諭した。
「純ちゃん、本当にそれでいいの?人を好きになるって気持ちは誰にでもあるものだし、それはわかるわ。尊重したいと思う。でも、あなたのその情熱は必ず冷める日がくる。その時に、生まれてきた子に言い訳はできないのよ。一生、背負っていくことになる。そして生まれてくる子が父親に会えない状況がハンディになるかもしれない。そのこともあわせて大きな負い目になる場合が多いのよ。」
「うん、それはね、トモ子姉さんに言われなくてもよくわかってるのよ。散々考えたの。でもね、私、この子と出会ってるの。ずっと前に。だから、私の子だけれど、私たちの仲間なの。だからどうしても産みたいの。産んでね、って頼まれてるのよ。」
 純子に真っ直ぐな瞳で直視され、トモ子の心がぐらっとゆらいだ。純子はあまり自分を強く出さない子だった。そんな純子が、ここまでまっすぐな眼差しで私の意志を押し返してくる。それを感じながらトモコの意識は瞬間に四次元へと飛躍していた。

 いつも霊視をする意識状態とはだいぶ違っていた。トモ子が霊的なガイドとつながる時、視界に白いもやがかかる。そして周囲がかげろうのようにゆらゆらと揺れ動き、全ての物質が柔らかくなり、半透明に見えてくる。自分の肉体感覚も淡くなり、あるのはただ眉間のあたりにふわふわと浮いている自分のチャクラが渦巻いている感覚だけだった。
 半ば超越瞑想状態の中でトモ子は恭一に出会った。まだ小さな胎児でしかない肉体に宿る予定の魂である。恭一は聡明な目をしていた。そして自分はプレアデス人であると名乗った。純子とはソウルメイトであること。お互いに地上で果たさねばならないミッションを抱えていること。生まれるためにはトモコの全面的なサポートが必要であること。そして純子は母親になりたくて産みたいと言っているのではなく、自分と地上で人として出会いたいから産みたいと強く願っていること。これらのことをわずか2〜3秒で恭一はトモコに伝えてきたのだった。
 まだ視界のもやが消えやらないまま、トモコは純子に伝えた。
「わかったわ。あなた達が仲間だっていうこと。」
「うん、そうなんだよね。」
「そのようね」
 純子は安堵したのか目にうっすらと涙を浮かべていた。トモ子も感動してしまい二人ともしばらく無言で見つめあっていた。

 あれから早いもので6年経ち、恭一はもう小学生である。恭一が生まれてから、トモコは純子と同居生活を始めた。純子とは姉妹ではないしまして恭一は自分の孫でもないのだが、トモコの立場は世間で言う母であり祖母であり、孫の面倒をかいがいしく見ている世話好きなおばあちゃんそのものだった。

 恭一が生まれたことをきっかけにトモ子は仕事をぐんと減らすことにした。その代わりにセラピストとしてメキメキと頭角を表していた純子が自分の顧客を相手に仕事を増やしていった。女二人、子供一人の暮らしならなんとか賄えたのだった。札幌市はシングルマザーの母親への支援が厚い自治体で教育費はさほどかからず、生活が苦しくなるということもかろうじてなかった。
 表向きの名声も信用も実績もかなり積み上げている二人ではあったが、相談室の運営は容易ではなかった。札幌の中心地、大通り公園が見える好立地で事務所を持ち続けるのは固定費の負担が小さくなかった。二人とも車を持たないので、地下鉄大通り駅から二駅隣のマンションに暮らしていた。ここも市内でも暮らしやすいと人気のエリアだったので、家賃が少し高い。その代わり利便性は高く、大雪が降った日でも移動に困ることはなかった。札幌という街は、どんなに雪が降っても地下鉄だけは運休になることはなかった。

 今日は土曜日。純子は午後から予約があるといってお昼前にマンションを出た。トモ子は恭一の好物のナポリタンを作るためにパスタを茹でることにした。
 食事が終わり、今はデザートのリンゴの皮を剥いている。恭一はさっきからずっとミニカーを走らせて遊んでいる。恭一は一人遊びがとても好きな子だった。そして独りで何かを呟いていることが多い子でもあった。
「リンゴがむけたわよ。どうぞめしあがれ」そう言って恭一の前に皿をおしだした。
「あ、落ちないね」
「落ちないって、なにが?」
「お皿、押したらす〜っとすべって飛んでっちゃう、のかなって思った」
「そんなこと起きないわよ、お皿は飛ばないものよ」
「そうかなあ、飛ばないほうがおかしいのにな」
「そうなんだ、恭ちゃんはお皿は飛ぶもんだって思うのね」
「なんでも飛ぶよ、人間だって本当は飛べるもの」
「羽がない生き物は飛べないわよ。人間に羽はないのにどうやったら飛べるのかなあ」
「羽はいらない。えいって飛べばいいだけだよ。そうしたら飛べるのに。」
「恭ちゃんは飛べるの?」
「今は飛べない」と、恭一はちょっとつまらなそうに言った。
「昔は飛べたんだね」トモ子はまだ恭一が子供らしい空想に浸っていると思って、適当に返した。
「子供じゃないのになあ」恭一がつぶやいたのを聞いてトモ子は一瞬、心を読まれた?とはっとしたがそんなはずはない、と一蹴した。
「ほんとだよ」と恭一がだめ押しをするようにつぶやいた。
 トモ子の好奇心と探究心がむくむくと沸き起こった。「この子、わかるんだわ、私の考えていることが。試してみようかしら。」と思った刹那だ。
「いみないよ〜」と恭一がつぶやく。「この子、意味ないって言ったのよね。私の心をすっかり読み取っているのは間違いなさそうね」
 トモ子がドキッとしているのをよそにあいかわず恭一はミニカーを走らせ遊んでいる。

「お友達がいるんだ」突然、恭一がはっきりとした口調で言った。ちょっと安心してトモ子は返した。
「なんていう子なの?」てっきり、小学校のクラスメートの友達のことだろうとふんで、そう返した。
「学校の子じゃないよ」
「どこに住んでいる子なの?」
「とおくだよ。ずっと、とおいとこ」
「ふうん、そうなんだ、じゃあなかなか会えないね」トモ子は話の方向性をよく理解できないまま返していた。
「でもお話しはする」
 この時点でトモ子はドキッとした。いったい友達ってなんのことだろう?と思った途端、恭一が言った。
「シリウスの友達だよ」
「シ、リ、ウ、ス?ってお星様のことだよね?」
「なんでも知ってるんだよ」

 恭一が言うには、シリウス人の友人がいること、生まれる前に出会っていて意気投合したこと、今でもテレパシーでつながっていて、たくさんの知識を伝えてくること、地上で出会うことはない、などだった。恭一は今、シリウスの友人から「重力」の話を教わっているらしい。地球になぜ重力があるのか、重力の本当の力の源はなんのか、と言う概念を学んでいるらしい。
 そんな会話を友人とテレパシーで頭の中で頻繁に行なっているらしく、そしてそれはどうやら真実のようだった。

 トモ子にはそんな恭一の「本当の魂の姿」を垣間見て、純ちゃんはこの話を知っているのかしら?と思って率直に恭一に尋ねてみたところ「ママは知らないよ、忙しいからいってない、それにママは宇宙の話はしたくないって」とのことだった。確かに純子は物理や力学のような法則や、宇宙の原理といったような概念的なことは苦手らしく、お互いの間でもあまり話題にならない。
 そんな純子に比べるとトモ子は理屈を考えるのが好きだし、科学に対する好奇心も旺盛で、科学雑誌を手に取ることも少なくなかった。最近も量子力学に関する動画をYoutubeで見たことがあった。だが、人類は「量子の存在」には気づいたが、量子のふるまいの原理を見出すには至っていないし、まだ突破口すら掴めていないのが現状だった。
 トモ子は純粋な知的好奇心から恭一にたずねてみた。
「恭ちゃんは『量子もつれ』って知ってる?」
「りょうし・もつれ・・」小さく恭一がつぶやいた。ミニカーを動かす手が止まった。視線がここではないどこかへ飛躍したように見えたが、それは一瞬だった。次の刹那には、またミニカーを走らせ始めていた。が、遊びながら恭一はこんなことを語った。
「ともだちが言ってたよ。宇宙はちっちゃい粒々なんだって。粒々がねばねばでくっついてる。でもねばねばは見えないし、つかめないから、みんなわかんないだって。ねばねばは宇宙の向こう側にひっついてるんだって。」
 恭一の説明は子供が知っている単語の羅列になってしまう。しばらく考えてからトモコはふと思った。「これって量子もつれの原理の話じゃないかしら。見えない、つかめないねばねばが粒々を繋いでいる。しかも宇宙の向こう側につながっている。東大の研究者がつい最近、発表した学説と同じだわ。」
 シリウス人って量子力学に詳しいらしい、とトモコは思った。

「恭ちゃん、何でもわかって面白いわね。恭ちゃんは発明家になれるかもしれないね」
「発明するとやっつけられちゃうんだよ」
「誰がやっつけるの?」
「発明するとね、お金もってる人がやっつけに来るんだよ」
 恭一が言っている発明する人とは、おそらくニコラ・テスラのことだろう。100年も前にニコラ・テスラは空間から無限にエネルギーを取り出す方法を発見し、たくさんの文献と設計図を残していった。が、それらの研究は世に出ることもなく、現在も多くの資料が行方不明のままになっているらしい。ということはニコラ・テスラもシリウス人から教わっていたのか、もしくはテスラ自身がシリウス人だったのかもしれない。「いつか純ちゃんにも宇宙物理学の話をしてあげたいものだわ。でも恭ちゃんが大人になったら本人から言って貰えばいいことだし。」

 それにしても恭一がいったいどんなミッションを果たすために地上にやってきたのか、よりによってどんな経緯があって、わたしたちと縁があったのか。思い出せるようでなかなか思い出せない自分自身の魂の経歴は、薄い半透明なベールに包まれたままだった。
 だが、トモ子は無理に思い出そうとはしないことにしていた。自分の役目は「今を生きること」だから。今日という日を精一杯に生きる。三次元にいる限りは三次元の法則の中でしか生きられない。この世界の法則を無視することで、精神と肉体に過剰な負担がかかり死期を早めてしまうことをトモコはひしひしと実感するようになっていた。
 唯一、恭一の体調が心配であった。「まだこんなに小さいのに宇宙の原理なんかわかっちゃって、生きづらくならないかしら。」でも、時流が変わっていく中でこんな子が増えていくのかもしれない。単にスターシードという括りにはまらない、あるがままに宇宙の落とし子みたいな恭一を頼もしくも感じる一方で、地球の未来が一体どう変貌していくのか、巨大な未知の星の上に暮らしている自分の足元がとってもおぼつかないものに思えるトモ子であった。