ポエム「松の木の下で」
高い所まで、すっかり枝も折れ、皮もはがれたみすぼらしい松の木の下で、
私は少年と並んで腰をおろしている。
あたりはまだガレキの山。
街灯もつかず、遠くにかすかにぽつりぽつりと街明かり。復興までの道のりはまだまだ遠い。
かつては、住宅と商店が立ち並び、人々が豊かににぎやかに暮らしていた平和だった町。
いまは、その面影はみじんもない。
夜半の静けさを、青い光がおおっている。
よぞらの月を、私は少年とみつめている。
少年が指折り、かぞえている。
「なにを数えてるんだい?」
「お月さんだよ。これで十と九個め。」
「そうか、あれからもう十九回目の満月がくるんだね。」
少年は口をきっとむすんで、あいかわらず月をみている。
彼には小さな妹がいた。
だが、少年はあの日から妹の姿を見ていないのだ。
私は、この子の妹が祖母と一緒に天に召されていったの知っている。
でも、教えることは許されていなかった。
だから、こう少年につげた。
「誰かのことがしんぱいなんだね。
その人も、きっとおなじ月をみて、一緒に数えているかもしれないね。」
こくんと彼はうなずいた。
そして、ちょっとだけ安心したような表情になった。
私は少年の為に、共に青い月をみあげながら、
こころのなかでそうっと祈った。
きみのそばにいるよ。
きみが安心して、みんなのもとに帰るその時まで。
きみの後ろで心配しているご先祖さま達といっしょにね。
ずっとそばにいるよ。
きみはひとりじゃない。
彼が安らかな寝息をたてはじめた。
私はそうっとひろげた羽でつつんだ。